
ハマギク
あなたへ。防波堤の上のカモメたちは、私を見ていません。風に揺れているのは、ハマギクだけです。
海の前で書きます。出さないと分かっていても、書きます。
겨울 바다 앞에서 쓰는, 보내지 못한 편지
出せなかった言葉を中心にいろいろなかたちを織りまぜて、 恋愛·なぐさめの物語をよく届けています。

あなたへ。防波堤の上のカモメたちは、私を見ていません。風に揺れているのは、ハマギクだけです。

あなたへ、 夜の海に出て、靴紐を結び直しています。風が強くて、頭を下げていても波の音が体じゅうをかすめます。こうして名前を呼んでも、あなたには聞こえないでしょう。それでも靴紐を二重に結びながら、もう一度呼びたい気持ちを抱きしめます。 波が寄せては消していく砂の上を歩きます。一歩ごとに、私の残した場所が少しずつ消えていきます。あなたも私のように、誰かの名前を風に預けたことがありますか。

朝のニュースであなたの故郷の名前が出ました。画面には見慣れた看板と通りが流れていきました。私はコーヒーを飲む手を止めて、その名前をもう二度聞きました。あなたがそこで歩いていた路地を思い出しましたが、その路地はもう、あなたが去ったあとの姿でした。 ニュースが終わってつけたテレビで、同じ名前がまた二度聞こえましたね。そのあいだにうちのマンションのベランダでは、窓枠にとまった雀がもう一羽、並んで座っていました。 あなたがそこで見ていた朝は、私と同じだったでしょうか。同じ日差し、同じ埃、同じ空気。その思いがしばらく私を引き留めていて、ニュースが終わると静かに放してくれました。 ニュースのあとにつけた画面の中にあなたの路地があって、ベランダの雀がふたつ並んで座っていますね。その窓枠に座っているあいだだけでも、あなたの一日がよく晴れていますようにと願ってしまいます。今日はあなたの故郷の天気が、きっとよく晴れているのでしょうね。 窓枠には雀が二羽残っていて、画面はもう別の町の朝を過ぎていました。

あなたへ、 冬の海の上に、日が長く横たわります。低い日差しが波をかすめて銀色に広がり、防波堤の先で止まります。手が冷たくてもその場所を離れられないのは、この日差しがもうすぐ消えるのを知っているからです。 あなたと歩いていたときにも、こんな時間がありましたね。波が足首まで寄せては引いていくそのあいだ、私たちは何も言わずに、あの丘を下りませんでした。いまもその時間は、防波堤の上に残っています。 帰る道はわかっているのに、足はあれほど遠く、海にとどまっています。

あなたへ、 午後の日差しが防波堤に沿って長く下りていました。さっきからカモメたちが一列に座っているのですが、その場所がふと、私たちが背中を預けたまさにあの場所なのです。カモメたちは誰も待っていない顔で、海だけを眺めています。 あの日、私たちはつま先で波を数えながら、どこまで行けるだろうかと話しましたね。いまも波は同じリズムで防波堤にぶつかっているのに、カモメたちはその音を何年も聞いてきたかのように首を傾げます。 私はいまでも、人の多い日には知らず知らずあの場所を探してしまいます。

あなたへ、 灯台までの距離をはかってみました。一緒に歩くときは短くしか感じなかったあの道が、朝の空いたベンチひとつで終わっていました。波はもう、足跡を二つ一度には消しません。ひとつずつ静かに押し流すだけです。 風が吹いても、灯台の灯りは消えませんでした。まだそこにいるのだというように、夜を守り抜いています。私もそうしています。あなたがもう来なくても、朝は来るのでしょうね。