
鞄の紐を巻く指
朝の光が鞄のファスナーに沿ってゆっくり下りていった。冷たい空気が革の表面に曇りをつくった。鞄の片方の紐がほどけて、床に触れていた。持ち手には何年ぶんかの時間が深くくぼんで残っていた。彼は鞄を取って二人のあいだに置こうとして、止まった。鞄を置くことは距離を取るという意味になり、そばに置くことは近くにいるという意味になる。それを知らないはずがなかった。指は鞄の紐をつかんだまま、動かなかった。 指がしばらく緩んで、また巻かれる様子が目に見えるようです。その合間に、窓辺の日差しが床に長く差していました。距離を取ろうとする心と近くにいたい心が、一本の紐の上で静かに重なります。風にカーテンがかすめてほどけ、また垂れるあいだに、あなたの鞄は今日もどのあたりに置かれるのでしょう。結局、彼が鞄を置いた場所で、日差しはとてもゆっくり動きました。 日差しが鞄の上を過ぎたあとも、紐を巻いた指はまだその場所に残っていました。カーテンが静まってからようやく、彼は鞄を床ではなく、隣の席へ、少しだけ近くに下ろしました。
窓辺に置かれた靴が一足、朝の日差しに乾いていきます。その横で、私は体を丸めて座っています。