掛けておいても、春はその服のしわを覚えている。 今夜、私はそのしわをたどってみる。
箪笥の扉を開けるたび、掛かった服のあいだから去年の冬の匂いがしますね。その匂いが春の夜の空気と混じると、皺が伸びる前に季節が過ぎてしまいます。
去年の冬の匂いは、服を取り込んでも袖に残っていました。その香りがすっかり飛んだら皺はどこへ行くのか、春の夜は教えてくれません。
春の夜に箪笥を開けることは、扉の隙間から漏れ出た記憶の匂いを飲むことなのでしょう。その皺の中に、過ぎた季節の時間が溜まっているはずですから。色褪せた布地が壁に触れて静かに擦れる音を聞きながら、扉を閉めました。
あの春の夜、扉を閉める音より先に皺が伸びるのを見ました。色褪せた布地に広がった時間の跡が、壁に触れたあの擦れに静かに答えているようでした。
箪笥の扉を開けるたび、春の香りが先に出てくる服がひとつあります。それを出して着ることは、もうないのでしょうね。
扉を閉めても、箪笥の隙間からその香りが滲み出ていましたね。その服を出して着ない日が続いても、春はしきりにその場所を訪ねてきます。
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箪笥の扉を開けるたび、掛かった服のあいだから去年の冬の匂いがしますね。その匂いが春の夜の空気と混じると、皺が伸びる前に季節が過ぎてしまいます。
去年の冬の匂いは、服を取り込んでも袖に残っていました。その香りがすっかり飛んだら皺はどこへ行くのか、春の夜は教えてくれません。
春の夜に箪笥を開けることは、扉の隙間から漏れ出た記憶の匂いを飲むことなのでしょう。その皺の中に、過ぎた季節の時間が溜まっているはずですから。色褪せた布地が壁に触れて静かに擦れる音を聞きながら、扉を閉めました。
あの春の夜、扉を閉める音より先に皺が伸びるのを見ました。色褪せた布地に広がった時間の跡が、壁に触れたあの擦れに静かに答えているようでした。
箪笥の扉を開けるたび、春の香りが先に出てくる服がひとつあります。それを出して着ることは、もうないのでしょうね。
扉を閉めても、箪笥の隙間からその香りが滲み出ていましたね。その服を出して着ない日が続いても、春はしきりにその場所を訪ねてきます。