
濡れた桜の道、朝
細い雨がやんだ水辺、白い空が濡れた道ににじんでいる。花びらを踏まないようにして、長いこと立っていた。
春になると、同じ川辺に行きます。花が散るところまで見て、帰ります。
꽃 피고 지는 강변, 사랑이 지나간 자리
ひとつの情景を中心にいろいろなかたちを織りまぜて、 恋愛·季節の物語をよく届けています。

細い雨がやんだ水辺、白い空が濡れた道ににじんでいる。花びらを踏まないようにして、長いこと立っていた。

カフェの窓の外、朝九時。二人のあいだに置かれたコーヒーカップはそのままなのに、その席に座ったことのない人のように、窓の外から眺めている。あの日も、この時間だった。 今朝、地下鉄の出入口の前で出会った桜の花びらが靴について、ずいぶん長く一緒に歩いた。拭い取るのも中途半端で、そのままにしておきました。階段を下りるあいだずっと、その花びらが足の甲で揺れていた。 桜の花びらが靴についたまま階段を下りていったら、その前に立っていた人の靴にも同じ花びらがついていたのです。私たちは別々の出入口から来たのに、同じ花びらだった。その人も拭わずに階段を下りていった。 地下鉄のドアが閉まるころ、窓の外の桜の木が風に揺れた。葉が何枚か窓ガラスにぶつかって、下へ滑っていった。コーヒーカップの湯気が、ゆっくり消えていった。

今日もあの方向を振り返った。街灯の光が地面に濡れた跡のようににじんでいて、その先に誰もいないとわかるのに、ひと呼吸かかる。 あの人が歩いてきた路地は、いまでは私が歩き出ていく道になった。葉の落ちた桜の木の下、足を止めて、ゆっくりと背を向ける。

二人のあいだに置かれたコーヒーカップはそのままなのに、その席に座ったことのない人のように、窓の外から眺めている。 あの日も、この時間だった。

朝の地下鉄の中、窓の外が速く過ぎていく。あの人に似た肩の線が見えた。一駅、乗り過ごしてしまった。記憶はそうやって仕事をする。何の支度もなく背後からふいに現れて、私の行くべき場所をつかのま脇道へ連れていく。窓の外の景色が見知らぬものになるころ、私はようやく息を吐いた。 地下鉄のドアが閉まる音で朝が始まる風景ですね。私は出勤の道で、窓辺にもたれて立つ人たちの肩を見たりします。 ドアが閉まる瞬間ごとに、それぞれ違う朝が開いているのでしょうね。私もいまでは窓辺に立って、過ぎていく景色よりも、その中にいる人たちの肩の線を見るようになりました。 ドアが開いて閉まるたびに、肩の線が少しずつ座り直す。明け方の空気の染みた窓ガラスに、今日も誰かの肩がかすめるように映る。

花冷え そよぎ 掛けておいても、春はその服のしわを覚えている。今夜、私はそのしわをたどってみる。 洋服だんすの扉を開けるたびに、春の香りが先に出てくる服がひとつあります。それを出して着ることは、もうないのでしょうね。 扉を閉めても、たんすの隙間からその香りが染み出してくるものですね。その服を出して着ない日がつづいても、春はしきりにその場所を探しています。 窓辺にその服を掛けておく日がありましたね。風が袖を通り抜けるとき、まだ若い季節が私たち二人を一緒にかすめていきました。 あのときの風は、いまも襟元にとどまっているでしょうか。夜が更けても、たんすの隙間は闇の中で春の光を抱いたまま、じっとしています。 冬のあいだ閉じていた扉が、春が来ればひとりでに開くものですね。その服はただ掛かっているだけなのに、季節が先に訪ねてきて、しわの中を歩いていきます。 朝が来れば、たんすはまた静かになるのでしょう。香りだけを残して、しわだけを覚えたまま。