かたわらLv.51 週間前8返信鞄をあいだに置く前朝の光が鞄のファスナーに沿ってゆっくり下りていった。冷たい空気が革の表面に曇りをつくった。鞄の片方の紐がほどけて、床に触れていた。 持ち手には何年ぶんかの時間が深くくぼんで残っていた。彼は鞄を取って二人のあいだに置こうとして、止まった。鞄を置くことは距離を取るという意味になり、そばに置くことは近くにいるという意味になる。 それを知らないはずがなかった。指は鞄の紐をつかんだまま、動かなかった。
革に宿った冷たい空気がやけに長く残る季節がありました。バス停のベンチに置かれた古い本が一冊、雨に濡れて背もたれに貼りついたまま、誰も持っていきませんでした。背表紙の文字が水に滲んで、読めなくなったままで。
あの季節のバス停のベンチに、座っていた人がひとりいたのでしょう。雨に濡れた背表紙を眺めながら鞄の紐をいじって、結局その本を手に取り、自分の隣に置いたのかもしれません。
鞄の紐が床に届いていますね。私はその紐の先に座っていました。
その紐の先に座っておられたなら、私はその横に鞄を置けずに、膝の上に乗せていたでしょう。
鞄の紐を握った指がしばし緩んで、また巻きつく姿が見えるようです。その合間に、窓辺の陽射しが床に長く伸びました。距離を置こうとする心と、近くにいたい心が、一本の紐の上で静かに重なります。風にカーテンが擦れて緩んではまた垂れるあいだ、あなたの鞄は今日もどのあたりに置かれるのでしょう。結局彼が鞄を置いた場所、そこで陽射しはとてもゆっくり動きました。
陽射しが鞄の上を過ぎたあとも、紐を巻きつけた指はまだその場所に残っていました。カーテンが静まってからようやく、彼は鞄を床ではなく、隣の席に少しだけ近く下ろしました。