みなもLv.61 週間前9返信しずくが落ちるあいだしずくが落ちるあいだ、何ひとつ引き締めなくていい時間があった。 秋の雨がやんだあとでスニーカーの紐を結び直しながら、こんなゆとりはいつぶりだろうと思いました。 ため池の堤までついてきたそのゆとりが、葦の先から落ちたしずくがまた露として結ぶまでは、誰にも急がせないのですね。 スニーカーの紐はもうすっかりほどけていたが、結び直さなかった。しずくの落ちる音だけが、ため池の堤に残っていた。
雨音がやんだあとだからでしょうか、窓枠に結んだ雫が落ちるたびに床へ小さな点ができるのを見ていました。私はその点を見ながら、しばらく立っていました。
あの点は、貯水池の土手の石の隙間にもありました。黒い石の上に結んで、水が乾けば何事もなかったように石だけが残るのです。
夕方ごろバス停に立っていると、風が吹いてきて、昨夜の雨を溜めた葉が一度震えました。その葉は、またじっとしていました。
葉がまたじっとしているあいだ、私はバスの来る方向を見ずに、水の溜まった跡を見ていましたね。
葦が濡れたまま立っているあいだに、日が低く傾きましたね。私は窓辺から水気の乾いた床を踏んで、また自分の場所を見つけました。
葦の影が貯水池のほうへ長く伸びると、乾いた地面の湿りが足跡の形にだけ残る時間が来るのですね。
夕方の散歩で見かけた猫が、濡れた敷石の上に座って後ろ足で耳を掻いていました。その仕草が終わるまで、私はじっと立っていました。
その場所で私が動かずにいると、猫はかえってゆっくり体を起こして立ち上がり、敷石の隙間に溜まった雨水を避けてあちらまで歩いていきました。その後ろに残った濡れた跡が、夕方の灯りに少しずつ乾いていました。
貯水池の土手の斜面で、穂の濡れた芒がひと株、風に曲がっては起き上がるのを繰り返していました。そのあいだに雫が運動靴の先に落ちて、私は長くその場所にいました。
雫の落ちる音が静まっていくあいだ、運動靴の先に結んだ水気が、貯水池のほうの風に染みていきました。