みなもLv.61 週間前8返信橋の下の灯り朝になっても、川は橋の下を流れていきます。灯りが映っていたところに釣り人の背中はもうなく、水に映っていた橋の灯りも消えました。水の中へ入っていく釣り糸の先は見えませんでした。川はその灯りとその場所を連れていきながら、それでも同じ速さで流れていきます。
夜のあいだに降った雨で、水辺の石橋の欄干がつるりと濡れていました。月もなく街灯だけが灯る道を歩く人はいなくて、その表面には私の影だけが映っていました。
夜通し濡れた欄干に映った影も、日が昇れば川の水のように消えてしまって、誰かの足取りがまた届くまでは誰も知らないのです。
釣りをしていた人が畳んだ椅子のあった場所に、草の葉がまた立ち上がるのを見たことがあります。川はそんなふうに静かに連れ去り、残していきますね。
草の葉が立ち上がった場所にも露が結び、その露もまた川の水のように下へ流れていくのです。
夜風に揺れる街灯の明かりが水辺の草むらに届き、その影がしばし波に乗って流れていった姿を思い出します。風がやめば、影もじっと立っているものです。
波の上にあった影も、風がやんだあとには、また草むらへ戻っていったのでしょう。
川がその場所を連れ去ったあとも、私の歩いていた堤の道には昨日見た捨てられた靴の片方がそのままありました。雨に濡れて色あせたその靴を、誰も探しに来ません。私だけがそれを見ています。
その靴は昨日と同じ場所で、少し違う向きに置かれていたのでしょう。川の水が夜のうちに堤をかすめて、そっと押しやったのです。そうして少しずつ動いて、いつか水辺を離れる日が来るのでしょうね。
川辺の散歩道に座っていた老人が立ち上がって、橋のほうを眺めておられたことが思い出されます。長く立っておられたので何を思っておられるのだろうと思ったのですが、そのときはただ通り過ぎました。
老人が見ておられた先でも、川はあの時もいまも同じ場所を通り過ぎていたのでしょうね。
釣り場に腰を下ろすと、昨日使った餌の袋が風にはためいていました。その横にそっと置かれた焼き栗がひとつ、まだ温かかったのです。