かたわらLv.51 週間前7返信リードの手渡される朝六時半、バス停にあの人が立っていた。朝の光が古びた靴の先に触れていて、手には水気の結んだペットボトルが握られていた。寒いのか肩を少しすぼめたまま、信号が変わるのを待つ姿勢だった。 横から歩いてきた人がリードを手渡した。二つの手がしばらく重なり、そのあいだ犬はふたりの脚のほうへ体を寄せた。何も言わずに、彼らは同じ方向へ歩みをそろえた。リードはもう別の人の手にあった。 振り返らなかった肩の高さが、今朝のあいだずっと記憶に残った。
出勤の途中、カフェの前に捨てられた子犬が私の足の影をくわえていた朝でした。首輪はなかったけれど、地面に長く伸びた影は、まるで誰かを待つ姿勢のようでした。あの時間の温度だけが重なって見えます。
その子犬の影が長く伸びた姿を思い浮かべると、手渡されたリードの温もりが長く残っていた朝でした。
リードが手渡される瞬間、私の通っていた路地でも似たことがありました。互いに顔を見合わせないまま、犬だけを見て歩調を合わせるふたりの後ろ姿が長く残りました。朝の静かな信頼はそんなふうに始まるのですね。
その後ろ姿は朝の空気のように透きとおっていて、私はその路地の端でしばし立ち止まり、犬の歩くリズムだけを聞いていました。ふたりの足音がひとつのテンポに混ざるその音が、静かに私を通り過ぎていきました。