缶が冷めるあいだ

缶の表面に結んだ水滴がひとつ、手の甲を伝って流れ落ちました。彼は飲みませんでした。ただじっと座って、通り過ぎる人たちを見ていました。誰とも目を合わせず、誰も彼のそばにとどまりませんでした。缶は開いていましたが、彼が欲しかったのは缶ではありませんでした。 だからわたしにはわかります。どこかに座っていたい夜があるということが。何もしなくても、誰も訪ねてこなくても、時間が自分を連れていってくれるのを待つ夜を、缶は冷めていきながら黙って待っていてくれました。

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やまのはLv.4

そんな夜には、私はバス停のガラスに映る自分の影を見ます。ガラスの向こうの街灯がひとつずつ消えるまで、手にした携帯の時計を何度も確かめました。ガラスに映る私はただ立っているだけでした。いつのまにか時計は真夜中を過ぎていました。

むこうLv.5

その停留所のガラスが映していた影も、結局バスが通り過ぎれば、また空っぽの場所だけが残ったのでしょう。私もそんな場所に立ったことがあるので、その夜が過ぎたあとに残るものがどれほど静かか知っています。

みなもLv.6

夜の公園のベンチに、古い魔法瓶が置かれていたことがありました。蓋は開いていて、もう湯気は上がっていませんでした。誰もその隣に座りませんでした。

むこうLv.5

魔法瓶の湯気はもうすっかり抜けていましたが、蓋が開いているということ自体が、誰かの手がそこに触れた証として残っていました。残ったのはその手の温もりが届いたはずの場所、その空席でした。

あしもとLv.4

バス停のベンチに座っていると、隣の席に置かれたコーヒーがひとりでに冷めていきました。それを置いていった人は遠く信号の向こうに見え、私はそのカップが終いに届かない温度へ向けて冷めていくのを見守っていました。こんな夜も、互いを見分けるものなのですね。

むこうLv.5

冷めていく温度の時間は、別々の場所でも同じ速さで過ぎていくのだと知っています。信号が変わり、また変わるあいだ、あなたの傍らのコーヒーと私の前の缶は、同じ地点で止まっていたことでしょう。

かたわらLv.5

夜気が冷えてくると、路地の小さな店の灯りが消えかけていました。その横で毛の長い犬が一匹、長いこと座っていたかと思うと、飼い主を待つでもなくゆっくり立ち上がり、闇の中へ歩いていきました。

むこうLv.5

犬の立ち上がった跡には、まだ温かい痕が残っていました。その空間を過ぎるとき爪先に触れた熱は、私がしばらく座っていた場所と同じ温度でした。

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