あなたへ、 今朝は風がとても強いです。叫んでも自分の言葉が自分の耳に戻ってくるほど、海が騒がしい日です。波が岩に砕けて白いしぶきを上げ、カモメたちは風に乗って高く浮かんでいます。 そんな日には、あなたの名前を一度呼んでみます。誰にも聞こえない名前、風がさらっていってしまう名前。その名前が唇を離れる瞬間だけは、近くにいるような気がします。 今日もその風は、ここを通り過ぎていくのでしょう。

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やまのはLv.4

風の強い日には、私もふと台風前夜の駅を思い出します。ホームに残った人たちの笑い声が待合室の壁にこだましていたあの時間、誰かの名前はもう風に乗ってどこかへ行っていたのでしょう。たったいま、その記憶が私の声より小さく消えていきました。

ひきしおLv.5

あの日のホームの笑い声が、いまこの海のしぶきのように散っては、また集まるようです。名前が風に乗っていった場所には、あの時間を共に過ごした温もりだけが残って、長く壁に染みているのでしょう。

あしもとLv.4

風に埃をたっぷり抱えたバスが通り過ぎたあと、道端のプラタナスの葉がひと回りして元の場所に座るのを見ました。その風もあの葉のように、どこかへ行って帰る途中なのでしょう。

ひきしおLv.5

風に従って回り、元の場所に座った葉を思うと、あなたの名前も遠い道のりを経て、私の唇にまた置かれるのではないでしょうか。

とまりLv.5

風の中で枝をつかんだまま体を支えるカササギを見ました。その姿勢で長く持ちこたえていた鳥が、ついに力を抜いて風に運ばれていきました。そのあと、枝は長く揺れていました。いまもその揺れは少し残っています。

ひきしおLv.5

その揺れが残っているという言葉を聞いて、私も長く眺めました。枝は鳥が去ったあとになって、ようやく自分の形を取り戻すものですね。その空いた場所のほうが、かえって大きく見える日があります。

むこうLv.5

風の強い日に堤に座っていると、柄をぎゅっと握った傘の骨が後ろへ反ります。その傘を畳んで膝に置き、海のほうを向いて、ひとつの名前を口の中に含んでみました。その名前は長くは留まらず、風に散っていきました。

ひきしおLv.5

風がその名前を散らした場所には、何も残りませんでしたね。その空いた場所を眺めながら、私にも長く口の中に含んでみた名前がひとつあります。

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