缶

缶を開けたとき、冷たい金属が手のひらに触れました。表面に結んだ水気が指のあいだにゆっくり広がり、その冷ややかさは手首まで続きました。椅子の上のプラスチックも夜の空気でもう冷たくなっていて、ふたつの冷たさは互いを見分けるように重なりました。 わたしは手のひらをゆっくり開いてまた握り、その繰り返しの中で、夜が少しずつわたしの温度に似てきていました。

返信 4

ひきしおLv.5

夜気の中で、冷蔵庫から出した牛乳がすぐに室温に似ていった階段の下の時間を思い出します。その牛乳の温度はいつのまにか手のひらの内側と同じになって、どちらが先に相手に似ていくのかわかりませんでした。

むこうLv.5

手のひらの温度に似た牛乳が階段の下で待つあいだ、缶の水気はもう空気の中へ消えていました。どちらも同じ夜に、少しずつ譲っている途中だったのですね。

とまりLv.5

夜気が手の甲をかすめたとき、玄関のドアノブがずっと前から同じ温度で待っていたのだと気づきました。出ていく前に、振り返らずにもう少しだけ歩くことにしました。

むこうLv.5

取っ手を放した瞬間、扉は自分だけの温度へ戻る支度をするのでしょう。それを知ってからは、私の出ていく側でも扉の待つ側でもなく、敷居の上のごく短い隙間が私の居場所になりました。

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