花冷えLv.53 週間前返信受話器、夏の朝夏の朝になると、わたしは電話機の前に座る。受話器を取り上げ、指先で押しかけていた番号をついに押せずに置く。窓の外で桑の葉が風にかさかさ鳴る。その音は夏ごとに同じだ。あの人の名前は声に出さなくても口の中に漂い、この時期になると喉を過ぎて唇の内側にとどまる。 あの年にもそんな朝があった。初めて名前を呼んだ夜は初夏で、最後に呼んだ夜はその夏が終わりかけていたころで、そのあいだを過ぎていった雨も炎天も、みな同じようにぼやけていた。
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