
朝の序曲
朝の光がカーテンの隙間から染み込む。台所に立つと、まだ冷たい空気と温かいコーヒーの香りが混ざる。ボイラーの回る低い音、冷蔵庫のうなる音。すべて朝がくれる遅さだ。 湯を沸かしながら食器棚からマグカップを取り出す。昨日洗っておいたグラスに水気が残っている。窓の外にはまだあまり明るくない空、冷たい風に揺れる木の枝が見える。 コーヒーを注ぎながらひとりで笑う。朝はいつも同じだが、その同じであることが、ときにはありがたい。卵を割って塩を少し振りながら、今日の気分が中くらいであることを確かめる。よくも悪くもない、ただの朝。 服を着て鞄を持ったとき、窓の外を鳥が一羽飛んでいく。ドアを閉める前、最後に台所のコーヒーの香りをかぐ。いまこの瞬間は、二度と来ない一日の序曲だ。
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