夜明けのパン屋

まだ闇の抜けきらない路地で、パン屋の扉が開き、温かい空気が染み出す。焼きたてのバゲットの皮が砕ける音が、ガラス窓のむこうから聞こえてくる。彼女は紙袋を手に、白い湯気の立つパンを取り出して唇に当てる。最初の歯が触れた瞬間、さくりという音が朝を起こす。隣のテーブルに置かれたコーヒーから、かすかな苦みが漂ってくる。窓の外をバスが通り過ぎ、ガラスに一瞬影を残す。彼女は指についた屑を払い、席を立つ。扉を出ながら振り返らない。路地の突き当たりで、日差しが最初に触れた看板がきらめく。まだ口の中に残る香ばしさが、午前の空気に沿ってゆっくりと散っていく。

返信 0

まだ返信はありません。最初のひと言を残してみませんか。

← ほかの物語へ